大判例

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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)387号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、審決にこれを取消すべき違法の事由があるかどうかについて判断する。

1  原告は、本願出願前において、およそフロート式苗植機と呼ばれるものは、すべて後進機構を有しなかつたところ、本願考案は、フロート式苗植機に後進機構を取入れたものであつて、そのこと自体新規であるうえ、フロート式苗植機に後進機構を取入れることは、新たな目的を持たない限り簡単に実施することはできないものであつて、きわめて容易に考案できるものではない旨主張する。

しかしながら、成立について争いのない甲第二号証の一によれば、本願考案の願書に添付された明細書には、「従来、苗植機においては前進及び後進の可能なものがあつたが、後進時にも苗植付杆が作動する為にフロートで整地されていない所謂る未整地(特に畦畔近くに多い)で後進するときに、前進側ではフロートで完全に整地された後の土壌面に苗植付杆が作用するが、このフロートによる整地が得られない為苗植付杆が土壌面の凹凸部に直接作用して前述のような苗分割植付爪の変形や苗植付杆の組付け変動が頻繁に起る欠点があつた。そこでこの欠点を起させない為に苗植機ではまず後進をさせないことが作業上の一つのポイントでもあり、最近では後進のできない苗植機が多く市販されているのが現状である。」(第二頁第四行ないし第一六行)と記載され、それに続いて、「そこで、本考案は、上記の如き消極的な前記欠陥の解決とは異なり、積極的に従来の欠陥を解消することを目的とする。」(同頁第一七行ないし第一九行)と記載されていることが認められる。

これによれば、本願考案の考案者自身後進機構を備えたフロート式苗植機は本願出願前から知られていたことを認めており、本願考案は、まさにその従来からある後進機構を備えたフロート式苗植機の明細書に記載されているような欠陥の解消を目的としたものであるというべきであり、後進機構を備えたフロート式苗植機が本願出願前には全く知られていなかつたという点についての立証は、原告提出援用の全証拠によつても、未だなされていない。

2  原告は、耕耘機に関する第一引用例とフロート式苗植機に関する本願考案とでは、ともに「車体の後進時に農作業具の作動を停止させる」という手段を施したものであるといつても、その作動の停止は、前者においては「作業の安全確保」を目的とするのに対し、後者においては「作業具の損傷防止」を目的とするものであつて、おのおのその目的を異にするから、従来周知のフロート式苗植機に第一引用例の技術を施して本願考案のようにすることは、きわめて容易であるとはいえない旨主張する。

しかし、苗植機と耕耘機とは、いずれも農作業機であつて、一方は耕やされた田畑に苗を植える機械であるに対し、他方は田畑を耕やすものであるという差異があるにすぎず、両者は同じ技術分野に属するものということができるから、第一引用例記載の耕耘機に「車体の後進時に農作業具の作動を停止させる」という構成が示されている以上(このことは当事者間に争いがない。)、第一引用例に示された後進時における作動停止を本願考案の苗植機に適用することは、当業者であればきわめて容易になし得るものといわなければならない。原告の主張は理由がない。

3  以上のとおりであるから、原告が審決の取消事由として主張するところは理由がなく、その他審決にこれを取消すべき違法の点を認めることはできない。

三  よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

前進及び後進を単一クラツチで操作できる走行車体の下部に、土壌表面を整地滑走するフロートを装着し、該車体の後部には前記フロートによる整地土壌面に上側から介入して苗植付け上下運動をする苗植付杆を設け、前記単一クラツチと該苗植付杆の伝動機構部とを単一クラツチを後進側に操作したとき苗植付杆が停止するごとく連動構成してなる苗植機の走行装置。

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